今回は、B’zがNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『おむすび』(主演:橋本環奈)に書き下ろした主題歌「イルミネーション」(10月7日配信リリース)の歌詞の意味について、徹底的に考察・解釈します。
B’zからのコメント
楽曲の世界観や歌詞の意味を分析するためには、主題歌の発表に際してB’z本人から出されたコメントを見るのが何より効果的だと思うので、以下に引用します。
泣いて笑って山を越え谷を越え進んでいくように生きて、たどり着いた場所には、無償の愛情に満ちた輝きを放つイルミネーションが待っている。そんな希望を持ちながらこの“おむすび”の主題歌を作りました。明るいエネルギー溢れるドラマとともに楽しんでいただけたら嬉しいです。
B’z(松本孝弘/稲葉浩志)
引用:https://bz-vermillion.com/news/240930.html
太字で示したこの価値観が、この楽曲を貫いている最も重要なものになるでしょう。それでは早速、「イルミネーション」の歌詞を見ていきましょう。
B’z「イルミネーション」の歌詞の意味を考察・解釈
【1番Aメロ・Bメロ】情景や場面設定 “君”と”僕”の関係、「君と僕のハイビーム」の意味とは?
君の1番好きな 歌を聴きながら進もう
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
暮れ残る空の下 浮かぶ山並み
曲がりくねった道をハモリ 進む君と僕のハイビーム
1番のAメロ・Bメロの歌詞から、情景や場面設定が見えてきます。この楽曲に登場する人物は”僕”と”君”で、主人公は”僕”です。この場面では、”僕”と”君”が日が沈みまだ明るさが残っている頃、山並みが見えるような場所にある曲がりくねった道を、”君”が好きな歌を聴き一緒に歌いながら進んでいるようです。
「ハイビーム」という単語に注目します。「ハイビーム」とは主に車の前照灯(ヘッドライト)の1つで、強い光を発するものです。ではこの二人はクルマに乗っているのかと思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。君と僕の自転車の前照灯が2つの筋になっているのをクルマの「ハイビーム」と比喩的に表現したものと考えます。
これらの描写とドラマの世界観を合わせて総括するとこのシーンは具体的に、高校生の男女や女子同士が下校時に田舎道を自転車で並んで帰っている様子が、最も想像できることでしょう。
他方で、情景描写が比喩的であり、かつ「君」と「僕」が女性と男性なのか厳密には定かではないため、この曲の歌詞にはいろんな状況や関係性が当てはめられそうです。例えば強引に解釈すれば、”君”がB’zのリスナーで、”僕”がB’z自身だという風にも捉えることもできなくありません。
また冒頭「君の1番好きな」歌を聴きながら進もうと提案しているところから、主人公の”僕”が”君”に優しさを見せていることが窺えます。
少なくとも、冒頭に紹介した「泣いて笑って山を越え谷を越え進んでいくように生きて、たどり着いた場所には、無償の愛情に満ちた輝きを放つイルミネーションが待っている」というメッセージと重ね合わせると、この情景描写が人生の比喩表現を掛けていることは明白でしょう。
【1番サビ】主人公が「イルミネーション」の存在を夢で見るが半信半疑?『おむすび』と掛けた表現も
ホントにあるよねウソじゃないよね 夢で見たイルミネーション
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
誰かが誰かのために灯す 愛まぶしたセレブレーション
Lights on, shine on はずむ息
震えたっていいよ
サビ頭のセクションでタイトルの「イルミネーション」が出てきます。(「セレブレーション」やこの後出てくる「でしょう」で韻を踏んでいますね。B’zの歌詞ではよくあるパターンです。)タイトルを含んだこのサビのフレーズが、曲の中で最も伝えたいことの一つのはずです。
主人公(語り手)は、夢で見た「イルミネーション」の存在を、「ホントにあるよねウソじゃないよね」と半信半疑で捉えています。
さらに続けて、「誰かが誰かのために灯す 愛まぶしたセレブレーション(=お祝い)」とありますが、これもイルミネーションのことを表現している(補足している)箇所でしょう。「イルミネーション」が自分自身のためだけでなく他人のために灯されるもの、それが誰かが誰かを祝福するものであることが示されています。確かに実際の「イルミネーション」も、誰かが誰かをお祝いするために飾り付けますよね。
「愛まぶした」というフレーズは、間違いなくドラマをイメージしたものでしょう。おむすびには塩をまぶします。なお『おむすび』の主人公・米田結は、阪神震災大震災で被災した時に「おむすび」を支給された経験を持ちます。そして成長とともに、食で人を元気にする栄養士を志すようになり、”縁・人・未来”を結んでいきます。「誰かが誰かのために灯す」というフレーズとともに、歌詞がドラマの世界観としっかりとリンクしていることがわかりますね。
「Lights on, shine on」は日本語で、「灯りをつけて、輝き続けて」といった意味に相当するでしょう。「shine on」はとりわけ、「困難な状況でも前向きに進み続ける、あるいは他人に対してポジティブな影響を与え続ける」といった意味も持っています。まさにこの楽曲の伝えたい価値観、世界観が凝縮されたフレーズです。リズムとしては「ダン、ダン!」と連続でキメる場面なので、ハメやすい英語が選ばれたのでしょう。
続けて「はずむ息 震えたっていいよ」という部分について。「息がはずむ」とは、運動をしたり気持ちをたかぶらせたりして呼吸が荒くなることです。震えるのは、寒いときや恐怖を感じるときや感動や歓喜を覚えるとき。これらを総合して鑑みるとこの箇所は、気持ちをたかぶらせて息がはずんでいる相手(”君”≒聴き手)に対して、「感情を表に出して、震えてもいいんだよ」と言い聞かせている描写なのではないでしょうか。
【2番Aメロ・Bメロ】”君”と”僕”の関係性がさらに明白に
ここは何処なのか わからないのがなんか嬉しい
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
君だけがただ一個の 僕の知ってるもの
心細さが勇気になる 君と一緒にいるならね
2番に入り主人公は、「ここは何処なのか わからないのがなんか嬉しい」と吐露します。人間心理として、現在地がわからないことはともすれば不安につながるはずです。しかし「君だけがただ一個の 僕の知ってるもの」「心細さが勇気になる 君と一緒にいるならね」と続くことで、”君”と一緒にいることで”僕”が心細さを勇気に変えられていることが示されます。場所に関しては1番同様に実際のものを言っているのかもしれませんし、人生の中での流れや位置のことを言っているとも解釈できます。どちらかというと、後者の比喩表現のニュアンスが強く感じられるかもしれません。
1番の描写と合わせると、主人公の”僕”は”君”と一緒にいることによって、たとえ今どこにいるかわからかなかったとしても勇気を持てるということです。”僕”にとって”君”はかなり力強い存在のようですね。二人の関係性が、よりクリアに見えてきましたね。
【2番サビ】主人公が「イルミネーション」の存在を確信
ホントにあるんですウソじゃないんです 息を呑むイルミネーション
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
透き通る風の中 僕らの頬を染めてくでしょ
Lights on, shine on うるわしき
花は開く
冒頭のフレーズは前回のサビと対比になっています。主人公は「イルミネーション」の存在を「あるよね?」と半分疑っていましたが、「ホントにあるんですウソじゃないんです」と存在を確信する状態に変わっています。つまり主人公は、人生の荒波を経て「イルミネーション」を感じられる境地に到達したということです。この主人公の気持ちの変化は、注目ポイントと言えるでしょう。さらにとりわけ”主張感”が感じられる「~あるんです」という口語的な表現からは、主人公がそれを確信しているだけではなくあると信じ続けようとしていること、書き手の稲葉浩志さんも同じ価値観に立脚しておりそれを聴き手に強く訴えようとしていること、が感じ取れます。
「イルミネーション」は「息を吞む」ほど素晴らしいもののようです。そして風が「透き通る」と表現されていることから、あたりが澄んでいる様子が窺えますね。若干寒い季節なのかもしれません。「僕らの頬を染めてく」という表現は、イルミネーションを見ることで気持ちが高揚する様子、またはイルミネーションの色の照り返しで頬が染まったように見えるということを表現しているものと思われます。
「うるわしき 花は開く」という表現は、イルミネーションがあることで綺麗な花が開く描写と捉えてよさそうです。イルミネーションはそれほどに生命力溢れる存在なのですね。「花」は具体的には「才能」や「希望」かもしれませんし、「恋」や「愛」かもしれません。
【3番Cメロ】また『おむすび』Wミーニング表現か 人生の真理も
ガッカリもションボリも丸めて 噛み締めて飲み込んで
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
ずっと諦めないでいられたら クライマックスは続く
ギターソロの後に、いわゆる”Cメロ”のセクションに突入します。
まず「ガッカリもションボリも丸めて 噛み締めて飲み込んで」というフレーズについてです。
これも間違いなく、『おむすび』とリンクさせた表現だと言えるでしょう。人生には、ガッカリしたりションボリしたりすることが多々あります。それを咀嚼して受け入れる様子と、「おむすび」を丸めて食べる描写を、掛け合わせているのでしょう。
次の「ずっと諦めないでいられたら クライマックスは続く」というフレーズは、前段からそのまま続いています。人生には様々なことがありますが、辛いことを受け入れて乗り越えてずっと諦めないでいられたら物語のクライマックス(=最も盛り上がった最高潮の部分)は続く、と訴えているのです。これは、人生に向き合う透徹した姿勢を示した箇所と言えます。実に真理的で、”ハッ”とさせられますね。
【3番大サビ(ラスサビ)】「ユメが萌える」の表記がカタカナ・漢字の理由・意味は?「イルミネーション」は何を表しているのか
ホントにあるんですウソじゃないんです ユメが萌えるイルミネーション
出典:B’z「イルミネーション」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
生まれてきたこと誇れるように その心飾るでしょう
Lights on, shine on 狂おしき
鐘が響く
「ユメが萌えるイルミネーション」の「ユメ」がカタカナ表記になっている理由は定かではありませんが、「夢」と書くと「叶えなければいけないもの」や「睡眠中に見るもの」「うつつを抜かすもの」など、日本語の中で固定観念っぽく見える側面が挙げられるかもしれません。(ちなみに稲葉さんは過去の複数のインタビューで、“夢は持たなければいけないもの”とする世間の風潮に対して警鐘を鳴らしています)その意味で、「ユメ」とカタカナにした方が広がりを持つと言えます。そして「もえる」の漢字が「燃える」ではなく「萌える」なのも似た理由かもしれません。「燃える」は「激しく気持ちが高まる、情熱が盛んに起こる」といった堅く激しい意味なのに対して「萌える」は、「芽生える」や「一方的で強い愛着心・情熱・欲望などの気持ちをもつ」といった、発展的で遊び心のある意味です。「夢が燃える」だと「現実的な夢(例えばミュージシャンやお笑い芸人になりたいなど)があって、それに向けて頑張らないと!」というような意味になりがちですが、「ユメが萌える」だと「胸の中で何かしらのポジティブな気持ちが芽生えてくる」といった意味が想起されるのではないでしょうか。歌詞では後者のようなニュアンスを伝えたいのでしょう。
そして1番の歌詞で「(睡眠中の)夢で見たイルミネーション」と歌っている部分と「(現実的な)”ユメ”が萌えるイルミネーション」が対比になっているのも注視したいところです。2番で「うるわしき 花は開く」と歌っているのも、「萌える」(芽生える)とリンクしているように感じられます。
ともあれまとめると、この箇所は「未来にポジティブな気持ちを持てるもの=イルミネーション」という図式を表している部分なのではないでしょうか。
「生まれてきたこと誇れるように その心飾るでしょう」というフレーズからは、この「イルミネーション」が自分自身が生まれてきたことを誇れるように自身の心を飾るものだ、ということが示されています。この歌詞は重要なメッセージです。冒頭紹介したコメントにも、「自分自身が生まれてきたことを誇れるような、無償の愛情に満ちた輝きを放つイルミネーション」という表現がありましたね。
改めてですが「イルミネーション」は隠喩(メタファー)であり、実際には自分の心の中に芽生え、自分自身を喜び輝かせるようなものなのでしょう。たしかに、それを言葉にするのは難しいはずです。現代の平易な言葉で言い換えれば「自己肯定感」が近いような気もしますが、それだけでは言い切れないと思います。おそらくもっと内発的で、広がりと深さがあって、利他的で愛情に溢れたものなのでしょう。この何とも表現しきれないものを「イルミネーション」に喩えたセンスには、感服します。
最後に、「イルミネーション」だから「光る」系のフレーズで締めくくられるかと思いきや「鐘」が出てきました。「狂おしき」なので相当にうるさい鐘が鳴っているのでしょう。そもそも外で鳴っている大きな鐘はだいたい狂いそうになるくらいにうるさいですよね。
もうお気づきかもしれませんが、「イルミネーション」と「鐘」といえばやはり「クリスマス」。このドラマの放送期間は冬やクリスマスを含んでいます。そのような意味でもこの楽曲はウインターソング、ひいてはクリスマスソングの要素も含めて制作されたのかもしれません。
まとめ
端的にまとめると「イルミネーション」の歌詞は、主人公が”君”の存在を力に人生で様々な経験を経て「イルミネーション」の存在を目にし、それが確かに存在すると確信するようになる物語、ということができるでしょう。
ここで少し突っ込んでお話しさせてください。B’z稲葉浩志さんが綴る歌詞には特有の、尊さ・健全さがあると思います。それは、人間が辛いこともある人生の中であくまで主体的・能動的に幸福を掴んでいこうとする価値観を持っていること、そしてそれを押し付けがましくないスタイルで聴き手に伝えていることです。
例えば、B’zの『EPIC DAY』(2015)というアルバムのタイトルには、「一生に一度あるかないかという『EPIC DAY』(最高の日)が来るのを目指して日々生きる」というテーマが込められています。また「Wonderful Opportunity」(1991)という曲には、「逃がさないで 逃げないで 胸の痛みと手をつないで明日を迎えようイヤな問題 大損害 避けて通る人生なら論外生きてるからしょうがないシンパイナイモンダイナイ ナイ ナイ ザッツライフイッツオーライ」(B’z「Wonderful Opportunity」作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)と、人生と対峙する姿勢が厳しくも楽観的に綴られています。
そしてこれらを含む大半の作品やメッセージは、「自分はこうします/こう思いますよ」と主張するに留めているので、聴き手が窮屈な思いをすることはありません。これがB’z・稲葉浩志さんの歌詞の特徴だと言えるはずです。
さて、「イルミネーション」に話を戻しましょう。もちろん色んな境遇や性質の人がいますから、誰しもが人生の中で今すぐに「イルミネーション」が見れる、「イルミネーション」が存在すると信じられるとは限りません。しかしこの歌詞ではあらゆる表現によって、それが確かに存在する、それがあなたにも持てるようになる、と優しく明確に説かれているのです。
「イルミネーション」は大袈裟に言うと、現代の教典のようなものかもしれません。
とにかく、朝からこの曲に励まされる日本人は多いはずです。「イルミネーション」の存在を信じて、今日も頑張りましょう!
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